忘れられないパン屋さんの想い出(4)

〜ローストビーフサンドと、味わうということ〜

2001年頃のこと。

私が「バベット」と出会ったのは、そのパン屋さんがオープンして1年ほど経った頃だったと記憶しています。

あの頃はちょうど天然酵母パンのブームで、固めのクラストに、ほんのり酸味のあるパンをよく見かけました。酵母によって風味が違うのも面白くて、あちこち食べ歩いたりもしました。

でも、バベットのパンはちょっと違いました。

いわゆる「無添加・オーガニック・天然酵母・国産小麦」といった看板を掲げるパン屋さんではなく、町の中にぽつんとある、どこか懐かしい普通のパン屋さん。

それでも、というより、それだからこそなのかもしれません。

バベットのパンは、きちんと衛生管理されていて、素材選びにも妥協がなく、それでいて肩肘張らない。

「こんなに美味しいなら、これで十分」と思えるパンに、私はやっと出会えた気がしました。


■ バゲットの記憶

今日は、その中でも私のお気に入りだったバゲットのお話を。

たしか全粒粉が半分ほど入っていて、少しだけ酸味があるのが特徴。

適度な“ヒキ”があり、パリッとした皮。

そのままでも充分に美味しくて、店頭で焼きあがるのを待っていると、ご主人が「15分ほど経ったくらいが一番おいしいんですよ」と、静かに教えてくれたのを思い出します。


■ ローストビーフサンドという名の芸術

そのバゲットに、ローストビーフを挟んだシンプルなサンドイッチがありました。

このサンド、ただの「バゲットサンド」ではありません。

ご主人が探しに探したという、しっとりとしたローストビーフに、玉ねぎのスライス。

パンの断面にバターとマヨネーズを塗って、具材をそっと重ねていく。

ただそれだけなのに、バゲットの香ばしさと絶妙に調和して、まるで握り寿司の「ネタ」と「すし飯」のようなバランス。

主張しすぎないのに、忘れられない味でした。

ランチタイムには、サンドをその場で食べている方もよく見かけました。

私はよくお土産にしてもらいました。小さな娘も夫も大好きでした。

バゲットだけの時は自家製アリオリソースを塗って軽く焼いて食べるのが一番!ですね。


■ 食と暮らしとパンの記憶

小さなカウンターの壁には、地元の画家さんが描いた「食べ物日記」の絵が飾られていて、そこに添えられた手描きの言葉もまた味わい深く、心をほどいてくれるものでした。

バゲットの他にも、ブラックオリーブを練り込んだフィセル、ベーコンエピ(中には粒マスタード入り)など、どれも記憶に残るものばかり。

焼きたてのパンの香ばしい匂いは、今でも鼻の奥に残っていて、それだけでお腹がすいてくるようです。

価格もとても良心的で、ハードトーストが300円ほど、パンドミは250円くらいだったと思います。

バゲットも同じくらいだったでしょうか。

ご主人はよくこう言っていました。

「毎日食べるものだから、高くはできないんです」

パンも紅茶も、暮らしの中に自然と寄り添うもの。

無理をせず、ちょっとした丁寧さと向き合う気持ちで選んだものが、じんわりと心に残るのだと思います。

次回は、バベットのクロワッサンについて綴ります。

また、読みにきていただけたら嬉しいです。


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