〜ローストビーフサンドと、味わうということ〜
2001年頃のこと。
私が「バベット」と出会ったのは、そのパン屋さんがオープンして1年ほど経った頃だったと記憶しています。
あの頃はちょうど天然酵母パンのブームで、固めのクラストに、ほんのり酸味のあるパンをよく見かけました。酵母によって風味が違うのも面白くて、あちこち食べ歩いたりもしました。
でも、バベットのパンはちょっと違いました。
いわゆる「無添加・オーガニック・天然酵母・国産小麦」といった看板を掲げるパン屋さんではなく、町の中にぽつんとある、どこか懐かしい普通のパン屋さん。
それでも、というより、それだからこそなのかもしれません。
バベットのパンは、きちんと衛生管理されていて、素材選びにも妥協がなく、それでいて肩肘張らない。
「こんなに美味しいなら、これで十分」と思えるパンに、私はやっと出会えた気がしました。
■ バゲットの記憶
今日は、その中でも私のお気に入りだったバゲットのお話を。
たしか全粒粉が半分ほど入っていて、少しだけ酸味があるのが特徴。
適度な“ヒキ”があり、パリッとした皮。
そのままでも充分に美味しくて、店頭で焼きあがるのを待っていると、ご主人が「15分ほど経ったくらいが一番おいしいんですよ」と、静かに教えてくれたのを思い出します。
■ ローストビーフサンドという名の芸術
そのバゲットに、ローストビーフを挟んだシンプルなサンドイッチがありました。
このサンド、ただの「バゲットサンド」ではありません。
ご主人が探しに探したという、しっとりとしたローストビーフに、玉ねぎのスライス。
パンの断面にバターとマヨネーズを塗って、具材をそっと重ねていく。
ただそれだけなのに、バゲットの香ばしさと絶妙に調和して、まるで握り寿司の「ネタ」と「すし飯」のようなバランス。
主張しすぎないのに、忘れられない味でした。
ランチタイムには、サンドをその場で食べている方もよく見かけました。
私はよくお土産にしてもらいました。小さな娘も夫も大好きでした。
バゲットだけの時は自家製アリオリソースを塗って軽く焼いて食べるのが一番!ですね。
■ 食と暮らしとパンの記憶
小さなカウンターの壁には、地元の画家さんが描いた「食べ物日記」の絵が飾られていて、そこに添えられた手描きの言葉もまた味わい深く、心をほどいてくれるものでした。
バゲットの他にも、ブラックオリーブを練り込んだフィセル、ベーコンエピ(中には粒マスタード入り)など、どれも記憶に残るものばかり。
焼きたてのパンの香ばしい匂いは、今でも鼻の奥に残っていて、それだけでお腹がすいてくるようです。
価格もとても良心的で、ハードトーストが300円ほど、パンドミは250円くらいだったと思います。
バゲットも同じくらいだったでしょうか。
ご主人はよくこう言っていました。
「毎日食べるものだから、高くはできないんです」
パンも紅茶も、暮らしの中に自然と寄り添うもの。
無理をせず、ちょっとした丁寧さと向き合う気持ちで選んだものが、じんわりと心に残るのだと思います。
次回は、バベットのクロワッサンについて綴ります。
また、読みにきていただけたら嬉しいです。

