チャコとの暮らしが始まりました。
我が家にやってきた当初はひどい風邪をひいていましたが、それもすっかり完治。お腹の虫も無事に退散し、可哀想だけど「恋の季節」も大きなトラブルなく通り過ぎました。一通りのピンチを乗り越え、ようやく落ち着いた平穏な日々がスタートしたのです。
🔳 完璧なトイレマナーと、並々ならぬ美意識
暮らし始めてまず驚かされたのは、トイレのことでした。
猫を家に迎えたら、まずはトイレの場所を教える「しつけ」が必要だと身構えていたのですが、チャコにはそれが一切不要だったのです。何も教えていないのに、まるで「私の場所はここね」と知っているかのように、当たり前のようにトイレに入って用を済ませる姿には感動すら覚えました。
その完璧なお行儀の良さを見るにつけ、「やはり以前は、どこかの家庭でとても大切に飼われていたお嬢様だったのだろうな」と、切ない過去に思いを馳せたりもしました。
しかも、チャコは大変なきれい好き。用を足した後は、手足に付いた目に見えないほどの小さな砂まで気になるようで、何度も何度も、それはもう執念深くシャッシャとはたき落としていました。その念入りな毛繕いと美意識の高さには、毎度感心させられたものです。
🔳 食卓の上の緊迫した心理戦
チャコ用のご飯は、キャットフードエリアに別に用意してあります。しかし、私たちが食卓につくと、なぜかチャコもちゃっかり自分用の椅子(のようなポジション)に腰掛け、当然のように食事の輪に参加してくるのです。
特におかずにお魚が並んだ日は、我が家のリビングは一触即発の厳戒態勢に入ります。
チャコ自身、「人間の食べ物に手を出しちゃいけない」というルールは、頭では一応理解しているようでした。そのため、最初はあからさまに欲しがるような素振りはしません。
しれっと横を向き、平静を装いながら、「私、お魚なんて一ミリも興味ありませんけど?」と言わんばかりのすました顔を決め込んでいるのです。そのポーカーフェイスは見事なものでした。
ところが、こちらの警戒心が薄れ、ほんのわずかでも視線を外したその瞬間!
目にも留まらぬ早業でお魚を咥え、脱兎のごとく部屋の隅へと走り去るのです。あのすました顔からの豹変ぶりには、毎回一本取られた気分になりました。
もちろん、人間の食べ物をあげるのは体によくないことは分かっています。けれど、目の前に大好物をぶら下げられて「ただ見ている」というのも、酷な話ですよね。
結局、「今回だけ、ほんのちょっとだけね」と自分たちに言い訳をしながら、小さくほぐしたお魚をちょっぴりお裾分けするのが、いつの間にか我が家の微笑ましい日常の儀式になっていきました。
🔳 箱入り娘の「高みの見物」と秘密の特等席
前回のブログでお話しした通り、我が家のアパートは「こっそり隠れて」の飼育スタートでした。そのため、当然ながらチャコを外に出して自由に散歩させるわけにはいきません。
ただ、ちょうどその頃は世間的にも「猫エイズ」が流行り始めた時期。世の中の愛猫家たちの間でも、愛猫を病気から守るために、外には出さずに「完全室内飼い」へと切り替えるお宅が急激に増えていた頃でもありました。
そういった時代の背景もあり、「外に出せないのは可哀想だけど、これがチャコのためでもあるんだ」と言い聞かせていました。幸いなことに、チャコ自身も元々おっとりした性格だったからか、外に出たがってドアの前で鳴くような気配は全くなく、家の中で満足そうにおとなしく過ごしてくれました。
そんな箱入り娘のチャコにとって、一番のお気に入りの特等席が「窓辺」でした。
少し高めの台を用意し、その上にふかふかの座布団を敷き、チャコ専用の「物見台」を作ってあげたのです。
私たちの部屋は一階です。アパートの前は住宅街の通りになっていて、朝夕は学校に通う子供たちや、買い物帰りの人、犬の散歩をする人など、多くの人が行き交います。チャコはその台の上に座り、まるで下界を監視する警備員のように、じっと外の世界を観察していました。
木にとまる雀、風に揺れる葉っぱ、はたまた「猫が猫を呼ぶ」のか、時折見知らぬ野良猫が通りかかることもありました。
チャコは、相手が絶対にこの部屋の中には入ってこられない「安全地帯」に自分がいることを完璧に理解していたのでしょう。外で野良猫と目が合うと、窓ガラス越しにここぞとばかりに強気になり、「ウーッ!」と低い声で唸って威嚇していました。外にいる時はあんなに小さくなっていたかもしれないのに、家の中ではなかなかの策士であり、女王様気質でした。
ちなみに、そんな大忙しの監視業務を終え、夜寝る時は、体にしっくり収まるお気に入りのバスケットが彼女の定位置であり、お姫様ベッドでした。
🔳 猫草のミステリーと、リビングでのスライディング事件
そうそう、我が家に来たばかりの頃の様子を思い返すと、チャコはおそらく、最初からすでに立派な大人の猫「成猫」だったようです。
子猫特有の無邪気さというよりは、どこか落ち着きがあり、推定年齢は1歳を超えたくらいだったのかな、と思います。
ご存知の通り、猫は起きている時間の多くを毛繕いに費やします。体を舐めて綺麗にするのは良いのですが、二、三日に一度は体外に出すために吐き出さなくてはなりません。
よく外にいる野良猫が、道端の草をモグモグと貪るように食べている姿を見かけませんか?
あれは決してオシャレでサラダを食べているわけではなく、胃を刺激して毛玉をペッと吐き出すための、猫ならではの本能的な行動なのだそうです。
そこで私もチャコのために、近所のあぜ道から「猫の草」(イネ科のチクチクした雑草のようですが)を摘んできて、お土産としてチャコに献上してみました。
チャコは嬉しそうにそれをシャキシャキと食べ、すると狙い通り、食べた直後にゲーゲーと綺麗に毛玉を吐き出してくれます。
……ただ、チャコの場合は「ところ構わず、今いるその場所で」吐いてしまうのがたまの瑕でした。
お気に入りのカーペットの上だろうが、座布団の上だろうがお構いなし。あの猫特有の「クックッ……ゲボゲボ……」という不穏な予兆の音がリビングに響き渡るたび、私はチャコを抱え、大慌てで猫トイレめがけてスライディングする羽目になりました。あのスピード感は、今思い出しても冷や汗が出ます。
🔳 我慢強すぎる箱入り猫の小さなサイン
私たちとの生活にもすっかり馴染み、お互いのリズムが掴めてきた頃のことです。
いつもは快食快便でおとなしいチャコの様子が、どうもおかしいことに気づきました。何度もトイレに行くのにすっきりしない顔をしていたり、どこか元気がなかったり……。
心配になって、急いで近くの獣医さんに連れていきました。診察の結果、なんと「膀胱炎」にかかっていることが判明したのです。
先生はチャコの小さな体を優しく撫でながら、「これは人間でも飛び上がるほど痛い病気なんだよ。痛かっただろうに、この子は本当によく我慢したね。えらいねぇ、強いねぇ」と、チャコの我慢強さを大絶賛してくださいました。
その言葉を聞いた時、愛おしさと同時に、申し訳なさで胸がいっぱいになりました。動物たちは言葉を話せません。「痛いよ」「苦しいよ」と言えない分、私たち飼い主が小さな行動の変化に目を光らせて、気づいてあげなければそのままになってしまいます。もっと早く気づいてあげられれば……と反省しつつも、何はともあれ、お薬をもらって膀胱炎も無事に完治し、一安心の夜を迎えました。
🔳 2週間の「実家留学」がもたらした驚きの成果
それから何年か経ち、どうしても家を空けなければならない事情ができ、夫の実家にチャコをしばらく預けることになりました。
確か、期間にして2週間ほどの「短期実家留学」だったと思います。
内気なチャコのことだから、環境が変わってご飯を食べなくなったらどうしよう、寂しくて鳴き続けたらどうしよう、と出発前はハラハラドキドキ。実家の両親にも「粗相をするかもしれないので、気をつけてください」と何度も頭を下げて預けました。
ところが、そんな心配はどこ吹く風。
チャコは持ち前の世渡り上手(?)を発揮し、すぐに実家の環境に馴染んだようです。それどころか、おっとりしてお行儀の良いチャコは、向こうの両親にとって退屈な日常に現れた「最高のアイドル」となり、お姫様並みに至れり尽くせりの可愛がり方をしてくれたようなのです。
2週間が経ち、いよいよチャコを迎えに行く日。
「寂しかったよ〜!」と感動の再会を果たすお決まりのシーンを想像しながら実家のドアを開けたのですが……そこにいたのは、寂しさでやつれるどころか、驚くほど「まるまると太ってパワーアップしたチャコちゃん」でした。
耳がおでこより中に入っているのです。顔が大きくなっているというか。
さて、
今日はこの辺で。

