小さなパン屋の閉店は、ひとつの時代の終わりのようでした。
バベットさんでの営業にも慣れてきた頃、私は「ティープリーズ」というブランドを本格的に立ち上げることになりました。
ブランドキャラクターが決まり、チョコレートとのセットで通販を開始。
紅茶の同好会や教室の運営、店舗への出張サービス、さらにはイベント出展など、週末はイベント、平日は教室と発送に追われながら、活動の幅を広げていった時期です。
そんな日々の中でも、バベットさんでの営業は、私にとって変わらず大切な場所であり続けました。
パン屋という仕事は、想像を絶する重労働です。
その献身的な働きに反して、利益を上げ続けることの難しさに、店主は日々向き合っておられました。
特に印象的だったのは、商品の鮮度への徹底したこだわりです。
賞味期限は短く、たとえ売れ残ったとしても、決して値下げはしない。
その代わり、必要としている人へ譲る。
それは、お店としての揺るぎない信念でした。
「毎日のものだから、法外な値段にはできない」
その言葉通り、お客様の日常に寄り添おうとする誠実な姿勢。
しかし、その誠実さゆえに、お店を継続させるという現実は厳しく、ついにその日がやってきてしまいました。
2001年から2007年まで。
駆け抜けたあの時間は、あまりにも濃密な歳月でした。
『パンは人なり』
焼き上がったパンの香ばしい香り。
独特の食感、心地よい歯応え。
噛み締めるほどに広がる小麦の味と、生きている発酵の匂い。
そのすべてが、バベットさんの人柄そのものでした。
あの味、あの香りは、今も私の体に深く染み込んでいます。
振り返れば、これほど心揺さぶられる出会いは、人生に一度あるかないかではないでしょうか。
そこには、弾けるような笑顔があり、驚きがあり、時には涙し、そして大きな喜びが詰まっていました。
私にとって、バベットさんと過ごした時間は、かけがえのない宝物です。
結果がどうあれ、あの時、全力で向き合った。
だからこそ、閉店という結末さえも、ただ悲しい出来事としてではなく、今の私を支える、光り輝くような想い出になったのだと感じています。
効率やスピードが求められる時代だからこそ、
あの濃密な手間暇は、今も静かに、私の中で息をしています。
ひとつの扉が閉じて、
また別の扉が、静かにひらいているのかもしれません。
さて、次はどんな物語を綴りましょうか……。

